ノウハウ

なぜ自転車の旅をするのか

 「自転車で走るのが好き」と言ってしまえば話はそこで終わるが、行きたいところに行ける、止まりたいところで止まれる、面白そうな路地があったらコース変更、市場があったらのぞいてみる。車や電車と違ってスピードが遅いので、景色の移り変わり、空、雲、風を感じ、ちょっとしたものにも目が行き、思わぬ発見があって楽しい。この先はどうなっているのだろうと気軽に走って戻ってくることもできる。電車を使っての旅行では、目的の場所が駅から離れている場合、それがたとえ数キロの距離でも荷物を持って歩くとなると大変で行くのをためらってしまう。また、バスの便が少ないと、1日に回れる場所も限られてくる。田舎のワイナリーなどをめぐろうとすると乗り物の都合で1日1か所ということもあるが、自転車にはそれがない。そして、ワイナリーからワイナリーの間の田舎の道も素敵だ。
 さらにヨーロッパでは多くの場合、自転車をそのまま電車に乗せられるので、これを組み合わせれば行動範囲はさらに広がる。自転車を持っていくのはめんどうだが、それを超える便利さがある。
 しかし、危険も忘れてはいけない。サイクリングロードを離れて郊外の一般道を走ると、車は自転車の脇を日本とは比べものにならない猛スピードで走っていく。日本と違って自転車専用道路が多いが、一般道の道端に顔写真をはめ込んだプレートがあり、その前に造花が置かれているのを何回か見たことがある。


電車と組み合わせる

 走行と輪行(自転車を持って電車に乗ること)の組み合わせでコースを作れれば自由度が高まる。しかし、電車に乗るたびに解体して袋に入れ、下りると組み立ては面倒。国によって違いがあるが(事前に調べておくと安心)、ローカルな電車(各駅停車)は、自転車をそのまま乗せることができる。朝と夕方の混む時間帯には載せられないことがあるが、急な天候や体調の変化、宿に着く前に暗くなりそう、効率よく観光地を回りたい、道が大型トラックの往来が激しく危険などの場合、その部分だけ電車を利用しない手はない。自転車持ち込みは多くの場合タダだが、かかるところもある。オランダでは、自動券売機にother productという選択肢があり、さらに開くと自転車と犬が選べるようになっていた。

写真 1 自転車を電車に載せる

載せてもいい車両にはマークがついている
列車の両端にこのマークの車両が連結
2台重ねるときは前後を逆にすると幅をとらない
座席を跳ね上げ、ひもで倒れないよう固定
天井のフックに前輪を引っ掛けるタイプ
この場合ドアそばにある 座席は跳ね上げ式


何人で行くか

 海外ツーリングの理想は4人だと思う。少ないと思うかもしれないが、理由はいくつかある。
 電車を利用する場合、電車を短い停車時間に低いプラットホームから乗せるので、二人がかりで引き上げるが、台数が多くては間に合わない。
 また、乗せていい車両も限られていて、そのスペースも広くない。地元の人の自転車がすでに乗っていれば、その人たちにとって私たちの荷物をつけた何台もの自転車は迷惑になる。そして、人数が多いと、交差点で全員が渡り終えないうちに赤信号に変わり、列が分断されることがある。追いつこうとして焦ったり、先頭が気付かずにそのまま進んでしまったりと、日本ではたいしたことではないが、交通事情の違う外国では危険だ。また、少人数の方が相談事も入りたいレストランもすぐに決まる。
 そして、男女とも偶数がいい。奇数になるとホテルで一人部屋ができ割高となる。
あと一つぜいたくを言えば、全員高齢者なので、メンバーの中に看護師や医師をリタイヤーした人がいれば申し分ないのだが、世の中そううまくはいかない。
 一人で行くのは、何事につけても自分のペースでできるので楽であるが、お勧めはしない。旅をしていると、仲間に「ちょっと自転車を見てて」と言うシーンがしばしばある。例えば、トイレだ。
 カギは二つ、一つは回りの固定物とつなぐようにとよく言われる。鍵をかけておいてもなくなることがよくあるからだろう。目を離すといたずらで、サドルやサイクルメーターがなくなることも心配だ。一人より複数で行く方が安心だ。


愛用の自転車

 飛行機で自転車を運ぶ話をすると、ほとんどの人が折りたたみ自転車ですか?と聞く。ばばたちが愛用している自転車は、クロスバイクやランドナーなどで、これらの自転車はママチャリよりはるかに軽く、走っていて階段があればひょいと持ち上げて登りまた走り続けることができる。
 ばば(この書き手である私は、年齢的にも見た目もばばなので)の自転車はクロスバイクで、ギヤは24変速、スニーカーでこぐのでペダルは普通のものを付けている。もともと11㎏ほどだったが、スタンド、荷台、ボトルホルダーなどいろいろ取り付けているので13㎏ほどになる。軽い自転車ほど値段が高くなり、凝りだしたらきりがない。ばばは、20年以上前に乗り始めたときに買った10万円ほどのクロスバイクを、部品を取り換えたりしながら今も乗っている。負け惜しみではないが、高い自転車は盗難にあったときのショックが大きく、ちょっとの間でも目が離せず、また傷がつくのではと取扱いに気がもめる。これまで訪れた国では、バイク用かと思うほどの頑丈な錠を2個、そのうちの1個はそばにある柵などの固定物とつないでいるのをよく見た。
 ロードバイクや折りたたみと比べて、これらの自転車はがっちりしていてタイヤがほどほどに太いので、重い荷物を付けて長い距離を走ることができ、未舗装の道でもそれほどパンクの心配をしなくてよい。道具を使わなくてもタイヤを本体から取り外すことができ、ペダルも外してハンドルをくるりと縦にすると、自転車は左右のでっぱりがほとんどなくなり、ばばの自転車はサドルの幅ぐらいの薄さになってしまう。
 パンクと言えば、車の往来が激しい道は、道路際に小石、砂はもとよりガラス瓶の割れたもの、引き裂かれたタイヤのかけらなど様々なものが吹き寄せられている。自転車はそのふきだまりを走ることになる。もちろん、すべてがそんな道ではない。ヨーロッパでは、ながめのすばらしい快適なサイクリングロードが延々と続いているところがたくさんある。


自転車パッキング

 自転車のタイヤを外して専用の袋((りん)(こう)(ぶくろ))に入れて、肩にかついで電車などに乗り目的地まで行くことを輪行という。
 国内の電車移動の場合、自分で持って乗るので大雑把なパッキングでもかまわない。国内線の飛行機では、航空会社は申し訳ないほど丁寧に取り扱ってくれるので、もちろん壊れても文句言はいいませんという書類にサインはするが、心配はない。
 が、国際線になると心配がおこる。分解した自転車とタイヤ2個をただ袋に放り込むだけでは、中でガチャガチャ動き、金属のフレームどうしがこすりあったり、ブレーキワイヤーにひっかかったりして、自転車が痛むかもしれない。また、飛行機の荷物コンテナに入れられる際に、輪行袋の上にだれかの重い荷物を載せられたらどうしようという心配もわいてくる。   
 要は、ガタガタしないよう、つぶされないよう、角をぶつけられても曲がらないよう、ゴムひもや結束バンドなどで縛り、でっぱったところを保護して一個の堅固な物体にすればいいのだ。やり方には決まりはなく、本人が安心できればそれでいい。以下の図では、チェーンは省略して書いてない。

 そして、自転車を入れても袋の中にはすき間がたくさんあるので、そこに、雨具、衣類、ヘルメット、サイドバッグなどを入れる。しかし、あれもこれもと輪行袋に入れていくと、どんどん重くなり持ち上がらなくなってしまうので、空気入れなど同じものがあれば仲間で分担する。
 また、航空会社によってスポーツバイクの機内預けの重さやサイズの上限が違うので、あらかじめ確かめておくといい。
 パッキングの図では、ディレイラーを外すようになっているが、自信がなければそのままにしておいた方がいい。図では、タイヤを結束バンドで固定するとあるが、ばばは古いタイヤチューブをひも状に割いたものや専用のゴムバンド(行きつけの自転車屋で購入)を使っている。
 このパッキングの方法は、自転車でシルクロードを走る会で教わった。

写真 2 固定と養生完了 あとは輪行袋に入れるだけ

細く裂いたゴムチューブや結束バンドも使用 あまり厳重に養生すると、帰りまでこれらの材料をすべて持って走ることになるので注意



後ろから見た
メンテやパッキングで使う道具類はまとめて袋に入れる
ハサミ、カッター、ペンチ、普通の空気入れが使えるアダプター、六角レンチ、ペダル外しスパナ、十字ドライバー、予備のねじ、 タイヤ外し、とげぬき

本体にタイヤで両側から挟んだ場合、
このゴムバンドで3か所固定


パンク

 パンクしたら、その場では新しいチューブに取り換える。普通、穴が開いたチューブは水につけてその場所を特定するが、ホテルにバスタブがなかったり、日本と違って洗面台の排水溝をふさぐ栓がないことが多いので補修はしない。また、補修用の接着剤は飛行機には持ち込めない。

<パンクの原因>

 パンクしてチューブを取り換えた場合、タイヤから必ずその原因となったものを取り除いておく。ガラスのかけら、ピン、針金、尖った小石などぱっと見ではわからない小さなものがほとんどだが、タイヤの裏をていねいに指の腹でなぞって探す。それをしないと、新しいチューブで走り出してもすぐまたそれが原因でパンクしてしまう。朝起きてみると空気が抜けていたという経験もあるが、虫眼鏡(地図を見るときも必要)を使わないとよく見えないほどの細くて小さいものが原因で、一晩かけてゆっくりぬけたので、この場合トゲぬきが重宝する。


飛行機に載せる

ラインツーリングの例: 成田の出発ロビーの宅配のカウンターで袋に入った自転車を受け取ると、カートに載せてそのままチェックインカウンターへ。縦、横、高さの合計203㎝、23㎏以内(この時のJALの場合で、その都度航空会社に確かめること)であるかチェックされて、自転車が壊れても文句言いませんという書類にサインをし、(航空会社によって違うが、別料金を請求されることがある。高くても1万円ほどだが、この時は無料だった)、大型の荷物を扱う別の場所に案内される。
 自分の家から袋に入れた20㎏以上の重さのものを、電車に乗って空港まで運ぶのは容易ではない。この当時(2015年)は、宅配で集荷に来てもらい成田や羽田まで運んでもらっていたが、今(2022年)はどの業者も受け付けてくれない。ばばは、家族に空港まで車で運んでもらっている。


服装

 サイクルウエアは、風の抵抗を減らすために体にぴったり張り付くようにできている。また、ハンドルを握るとかがんだ姿勢になるので、背中が出ないように後ろの裾が長い。背中の腰のあたりに大きめのポケットがついていて、タオルや財布などが入れられる。柄も大胆なものや女性向きのかわいいものも増え、売り場で見ているだけで楽しい。
 が、ばばたちはそれにはこだわらない。空気抵抗を心配するほどのスピードを出すことはないし、乗っているときはいいが、観光するとき、ホテルから外に食べに出るとき、飛行機の中では、着替えないとこれではなんだか変だ。サイクルウエアは他のもので代用できるので、荷物を減らすために持って行かない。
 そうすると、てんでばらばら思い思いの格好になるので見た目が今一つとなる。海外では、そろいのウエアを着てすれ違いざまに軽く手を挙げて風のように走っていくチームにしばしば出会う。彼らはまぶしいほどかっこいい。

<服の色>

 ウインドブレーカーや雨具など特に上半身の服は、ドライバーが気付きやすいように黄色などの明るい色を選ぶようにしている。


地図とコースづくり

 走ることに重点を置く場合と、観光しながらのツーリングでは違ってくる。ばば達は、名所は見逃したくないし、面白そうなところがあれば臨時停車もしたい。その場合、1日の走行距離は50~60km、途中に大きな名所がない場合は、70kmぐらいにしている。ちょうどいいところに宿泊するホテルがなければ、この距離は伸び縮みする。外国では暗くなってからホテルに到着するのは避けたい。
 1日だけのツーリングなら100kmをこえても問題はないが、連日走る場合やグループで走る場合は、走行距離は控え目にしている。
 そして、初日の距離も短めがいい。組み立てた自転車が壊れていれば自転車屋での修理の時間が必要になり、また、時差、地図やその国の交通事情に感覚を慣らすには、時間に余裕のあるほうが安心だ。
 ばば達には、日本を出てから帰るまでの日数は、12日から長くても2週間がちょうどいい。若くないので無理をせず、景色を楽しみながらツーリングすることにしている。そして、中ほどに連泊を1回入れ走行をしない日を作っている。
ラインツーリングの例: 魅力的なサイクリングロードとしては、ドイツにはメルヘン街道、ロマンチック街道、フランスにはプロヴァンスなどいろいろある。それなのになぜこの時はライン川なのかと聞かれても、今となっては選んだ理由を思い出せないが、川の流れに沿って走るのだから下りだけでつらい登りはないだろうと考えたのかもしれない。
 ルートは、bikelineシリーズの 地図 Rhein-Radweg Teil 1: Von Andermatt nach Basel と Teil 2:Von Basel nach Mainzの地図のとおりにした。このブルーのbikelineの地図は、コンパクト、水濡れOK、リング綴じなのでページをめくれば次々と先のサイクリングロードが出てくる。他の地図の様に、折ったり広げたりする必要がない。どうしてこんな回り道になっているのかと疑問に思って現地に行くと、これが大正解。眺めが良かったり、車の通らない安全できれいな森の中の道だったり、住んでいる人がジョギングや犬の散歩に使うようなしみじみローカルな道だったりする。道の状態も、自転車専用か、舗装されているか、下っているのか登っているのか、それが急かなだらかか、ポイントからポイントまでの1.6kmなどの短い距離も書きこまれている。途中の見どころの解説、インフォメーション、自転車屋、レンタサイクル屋、電動アシスト自転車の充電場所、大きな町では拡大図も載っている。ライン川の流れる方向、土手に立つラインキロメーターの位置とその数字まで書かれている。海外ツーリングを初めてする人は、このbikelineシリーズから一つ選ぶといい。これらの地図の多くは、ドイツ語(英語で書かれているのもある)で書かれているが、翻訳ソフトを使えばいい。
 もちろん、地図以外に「地球の歩き方」の該当部分だけを切り取ったものも持っていく。広い範囲の地図も必要で、ミシュランの20万分の1の地図も携行する。これは大型書店に置いてあるので、広げてカバーしているか確かめる。


鉄道利用のコツ


フランスの例: SNCFは日本のJRのようなもの。TGV, 都市間長距離列車のIntercités、普通列車のTERなどがある。自転車を裸で載せられるのはTERだけと理解していたが、TERでも電車によっては、自転車を載せられる車両を連結していないものや、通勤時間帯には載せられないものもあるので、時間にゆとりをもって乗る列車を決め、駅に行ったほうがいい。ばばたちが走るようなところでは無人の駅が多く、駅員がいる駅でも日本のように窓口がいつでも開いているとは限らない。無人駅では、切符は自動券売機で買わなければいけないので、クレジットカードが必要。
 SNCFのサイトに、日本の「乗り換え案内」に相当するものがあり、行先や日時を入れると発車や到着の時間がわかる。
 鉄道の路線図や時刻は、書店で売っているヨーロッパ鉄道時刻表 ( EUROPEAN RAIL TIMETABLE )で調べることができるが、あまりにもローカルな路線は載っていないことがあるので、ネットでその国の「乗り換え案内」で調べておくといい。だが、日本の親切丁寧厳密な鉄道運行の感覚でいると、現地行ってみて「えー!そんなあ」ということがあるので、余裕をもってコースを作るといい。

<廃線の嵐>

 日本と同じで、ローカルな路線ほど廃線になっている。そしてターミナル駅でも!無人駅ということもある。廃線になっていなくても乗り換え案内で調べると、バスのマークがついた時刻が載っていることがある。ダイヤのうち何本かを、電車の代わりにその区間をバスにしている。その場合はプラットホームではなく現地の人の動きを見て駅前で待つ。


トレーニング

 グループで走る場合は、遅れずについていかなければならい。登り坂のたびに上で待たせては申し訳ない。そのためにはトレーニングが必要だ。自転車に毎日10~20km乗っていれば、高齢になっても確実に力はつく。
 健康器具の宣伝ではないが、筋肉は使えば鍛えられる。ラインツーリングで一緒に走った70代の男性は、毎朝5時に起きて自転車で20km走り、途中の公園でラジオ体操に参加して帰ってくるのを日課としている。だから70代でも余裕でこげる。知人に80歳を超えても元気にツーリングを楽しんでいる人がいる。自転車には年齢は関係ないようだ。ばばはそのころ腰痛に悩まされていたが、自転車に乗ると気にならなくなる。上半身の体重の一部を、ハンドルを握る両腕が引き受けてくれるからだ。
 しかし、トレーニングはしんどいしつまらないので、できたらやりたくない。でもツーリングには絶対行きたい。それにはトレーニングが必要だ。悩ましいところだ。
 ばばには、20kmも安心して走れるようなところが近くにないので、ジムで進まない自転車をこいでいる。しかし、今日は止めて明日行こう、来週でもいいではないかと怠け心がすぐ出る。今日は行くぞと決めたら、言いわけや延期の理由を思いつかないように頭の働きを止め、シューズやウエアに何も考えずに手を伸ばし、ドアを開けジムに向かって歩きはじめる。トレーニングは修行と同じで、雑念を払いのけなければできない。
 他には、出発1か月前になると、車のあまり通らない長い急坂を普段から見つけておいて、何回か自転車で登ってみる。はじめからノンストップで登れるような坂ではだめだ。ハアハア息を切らし、途中で何度もここで足を置こうか、いや、つぎの電柱まで頑張ろうと自分との戦いが起こるような急な坂であることが望ましい。これを続けると、1週間もすればすんなり登れるようになる。
 ラインツーリングでは、東京と広島を直線でつないだほどの距離を9日間で走った。近所のスーパーに自転車で往復するだけではとても間に合わない。普通に歩けるからと言っていきなり3000m級の山に登るのと同じ。そして「若いときはスポーツ万能だったし、自転車ぐらい」と思う人は赤信号。そういう人はやめた方がいい。トレーニングは辛くてつまらないが必須だ。苦あれば楽あり。


その他の持ち物

 持ち物は普通の海外旅行と同じ。荷物を軽くコンパクトにするために、衣類はできるだけ減らし、ホテルで毎日洗濯するので、できるだけ速乾性のものをそろえる。紙類も思いのほか重い。ガイドブックなどは使うページだけ切り取って持っていく。


なじみの自転車屋さん

 ばばはメカに弱い普通のおばあさんだ。微妙なワイヤーの調整などはできない。懇意の自転車屋さんをつくっておくと心強い。ばばがお世話になっている自転車屋さんは、町によくあるチェーン店ではなく、自分でクラブを持っていて店主自らもレースに参加する。そんな自転車屋さんなら、他のことについてもアドバイスしてくれ頼りになる。ばばは、長期のツーリングに出かけるときは点検してもらっている

<お股の話>

 自転車に乗り始めのころは誰もが経験する。お股が痛くてサドルに座っていられなくなるのだ。ペダルをこぐたびにやわらかいお股がサドルで擦れ、長時間それがくりかえされると、とんでもないことになる。男性でも同じだ。
 すり傷なので寝る前にワセリンを塗ってしのぐ。ワセリンは長期のツーリングには持っていくとよい。次は、いいサイクルパンツをみつける。サイクルパンツには、お股のところに厚いパッドが縫い付けられている。それでもだめなら、なじみの自転車屋さんに相談してサドルを取り換えてみる。


グループの走り方

 複数で走るときは、縦一列はもちろんだが、先頭はこぐ力と経験のある人、後尾は先頭と同じ力がありさらに広い心の人が理想だ。
 後尾はメンバー全員が見渡せるので、列が途切れたとか、誰かが疲れているとか、乗り方がおぼつかないなど様々なことがわかる。それらに臨機応変に対応しなければならないので重要だ。
 こぐ力があまりない人は、マラソンと同じでいったん集団から離れるとどんどん遅れるので、先頭のすぐ後ろを走るといい。そして強い向かい風のときも前の人とくっついて走ると楽だ。
 快調に走っていても、突然誰かが止まることがある。「信号が赤に変わった」、「探していた標識を発見した」、「今のところ曲がるんじゃないの」、「ここで写真を撮りたい」、「カメラを落とした」、「チェーンが外れた」などいろんなケースがある。どんなに自分だけの世界にひたっていても、止まるときは必ず「とまりまーす!」と大きな声で言う。急停止は追突事故を招き、後ろの人が巻き込まれる。


ことば

 どこの国でも、観光や宿泊関係、インフォメーションでは、英語で応対してくれる。 
 ばばの中高生時代の英語は、読んで翻訳と英作文をする受験英語で、聞いたり話したりはやらなかった。だから海外旅行で苦労し、せっかく話しかけられても無口になってしまう。
 とはいうものの、メンバーの中で最低一人は、たどたどしくても英語が話せると心強い。ばばは、自分の英会話を「いけいけイングリッシュ」と呼んでいる。ためらわないでまず一歩踏み出す。文法が間違っていても相手は笑わないものだ。日本で、外国人がたどたどしい日本語で話しかけてきても誰も笑わない。それより話しかけられた方は、何を言っているのか理解しようと耳を傾けてくれる。外国でもそれは同じはずだ。
 ばばは、気が向いた時だけテレビの英会話番組を見る。テキストは、買うと安心してしまうので買わない。そして、今覚えたいいまわしを忘れても気にしない。
 海外サスペンスドラマが好きなので録画し、まず吹き替えで聞き次は英語で聞く。わかってもわからなくても気にしないで聞き流す。他のことをやりながらでもいい。何度かこれをくりかえしていると一瞬わかることがある。「ん? 今 We need your help. って聞こえたぞ」刑事が聞き込みで言ったのだ。これは道を聞くとき使えるかもしれない。「あれ? 今、伯爵夫人がIt’s too public here. と言ったのでは?」字幕では「ここでは人目に付きますわ」となっている。これを旅で使う機会があったら大変だ。サスペンスドラマばかりだと、will (遺言書) や poison(毒)など、海外旅行では絶対使わない単語も覚えてしまうが、それも楽しい。
 そうやっているうちに、機内サービスでI like tomato juice. やDo you have tomato juice? (どちらを言っても、トマトジュースがもらえる)とか、フロントでThis key doesn’t work.(部屋の鍵が開かない)なんて言えたりして、ちょっとうれしくなる。どれも中学英語なのだけれど。
 このホームページを作ってからかなり時間が経っている。コロナで冬眠している間に世の中が進みスマホで会話ができる時代になっていた。私は「Google 翻訳」のアプリ(無料)を入れている。感動するほどスムースに現地の人と意思疎通ができる。食事を一緒にとりながら、お互いスマホを見せ合うことで会話が進む。電話はまだ難しいが、張り紙や案内板や美術館の説明板などなんでも読めてしまう。


<こんにちは>

 田舎を走っていると、家の前にいすを出してお年寄りがのんびり座っていることがある。スマートではない服を着た若くない外国人が集団で走る自転車は珍しいのか注目を集める。そんな時は、覚えたての現地の言葉で「こんにちは!」と手を振ると、にっこりして手を振り返してくれることがある。荒野を走る貨物列車に向けてこぎながら手を振ると、汽笛が返ってきたことがあった。
 年を取ると新しい言葉はなかなか覚えられないが、「こんにちは」と「ありがとう」だけはすぐ口に出るようにしている。